学生時代は、帰り道に何時間でも話していられた。同じ先生の口ぐせで笑い、同じ歌を聴いて、明日また会うのに夜遅くまで電話をした。そんな友達と久しぶりに会ったのに、なぜか話が噛み合わない。
相手の話に相槌を打ちながら、心のどこかで「前はこんなふうじゃなかったのに」と思っている。帰りの電車でひとりになって、楽しいはずの時間に、思いのほか疲れていた自分に気づく。
昔の友達と話が合わなくなったと感じるのは、多くの場合、どちらかが悪いからではないのだと思う。年月のなかで、それぞれの暮らしや立場、関心ごとが少しずつ変わってきた。
そういうことが少なくない気がしている。ただ、理由がわかったところで、「あんなに楽しかったのに」という虚しさは、すぐには消えてくれない。今日はその虚しさと、これからの関係のことを考えてみたい。
「あんなに楽しかったのに」という虚しさ
嫌いになったわけではない。喧嘩をしたわけでもない。むしろ今でも、大切な友達だと思っている。だからこそ、戸惑うのだと思う。
以前なら身を乗り出して聞いていた話に、うまく興味が持てない。会話のテンポが少しずつずれて、沈黙をどう埋めようかと考えてしまう。
グループのメッセージに何と返せばいいのか迷って、既読のまま時間だけが過ぎていく。どれも小さなことなのに、重なると、胸の奥にぽっかりと穴があいたような感覚が残る。
この虚しさは、疎遠になる寂しさとも少し違う。友達はそこにいるのに、あの頃と同じ楽しさがそこにない。ご相談のなかでも、「嫌いじゃないのに、会ったあと妙に疲れてしまう自分がいやなんです」とお話しくださる方がいる。楽しめない自分のほうを責めてしまう方も、少なくないのかもしれない。
昔の友達と話が合わなくなったのはなぜ?
学生時代の友達とは、同じ教室で、同じような毎日を過ごしていた。話題が自然に重なったのは、置かれていた環境がよく似ていたからでもあるのだろう。
けれど年月が経つと、それぞれの毎日は少しずつ違う形になっていく。特に女性は、結婚や出産、子育て、仕事での立場や働き方の変化、引っ越し、親の介護と、人生の時期によって暮らしが大きく変わることがある。
違う経験を重ねるうちに、日々考えていることや気になることも変わっていく。子どもの受験で頭がいっぱいの人と、職場の人間関係に悩んでいる人とでは、同じ一時間でも話したいことが違って当然なのかもしれない。以前は説明しなくても通じた話題に、今は前置きが要る。そのわずかな手間が、会話の弾みを少しずつ奪っていくような気がしている。
もっとも、環境が違えば話が合わなくなる、と決まっているわけではない。まったく違う道を歩いていても話が尽きない友達もいれば、似た環境にいるのに、なぜか噛み合わなくなることもある。環境や立場の変化は、関係に影響することがある要素のひとつ。そのくらいに受けとめておくのが、ちょうどいいのだと思う。
今が変わっても、あの頃の楽しさまで否定しなくていい
話が合わなくなると、「本当は昔から合っていなかったのかもしれない」と考えてしまうことがある。けれど、あの頃の楽しさは、そのときの二人にとって本物だったのだと思う。
同じものに夢中になり、同じことで悩み、同じ帰り道を歩いていた。共通するものがたくさんあった時期に、たくさん笑った。そのことは、今の関係がどう変わっても、なかったことにはならない。今は同じようには楽しめないというのは、過去が間違っていたということではなく、時間が流れて、二人の立っている場所が変わったということなのだろう。
古いアルバムの写真が今の自分と違って見えても、写っている笑顔までが嘘になるわけではない。そう考えると、思い出を大切にしたまま、今の違和感とも向き合いやすくなる気がする。
今は合わなくても、この先の関係は決めなくていい
人間関係は、いつも同じ距離感で続くものとは限らない。今はお互いの暮らしが違って話が合わなくても、それがこの先もずっと続くとは限らないのだと思う。
子育てが一段落したころに、また二人で出かけるようになった。親の介護という同じ悩みを抱えて、久しぶりに長い電話をした。何年も連絡が途絶えていた友達と、思いがけないきっかけで再会し、昔とは違う話題で笑い合えた。ご相談にいらっしゃる方から、そんなお話をうかがうこともある。それぞれの生活や関心が変わっていくうちに、もう一度、自然に重なる時期が来ることもあるのかもしれない。もちろん、また以前のように仲良くなれるとは限らない。ただ、今の距離だけを見て、関係の終わりを決めてしまう必要はないのだと思う。
だから、今の違和感を無理に解消しようとしなくてもいい。昔と同じ関係に戻ろうと頑張る必要も、反対に、すぐに縁を切る必要もない。会う回数が減ってもいいし、年に一度の挨拶だけの時期があってもいい。昔の関係を大切に思うことと、今も同じ付き合い方を続けることは、別のことなのだ。
今の関係をどうするか、急いで結論を出さなくてもいい。今は今の距離のまま受けとめて、この先の可能性は閉じずにおく。長い付き合いの友達とは、そのくらいのゆるやかさで向き合っていけるのかもしれない。
